記憶と記録

アジアの命

 アジアは過去に歴史的には多くの不幸なできごとがあり、その多様性ゆえに、連帯をしてなにかをつくりあげることは困難な地域であるとされてきました。「近くて遠いアジアの国々」といわれてきたのは、そのためです。

 しかし、私は、歴史的負債を遺産に変えることができないかと、ずっと考えてきました。2004年釜山の会議でアジアで共有で使える、アジアのためのアジアの力でつくりあげるがんのデータベースを作ろうという提案をアジアの研究者の間でしました。遺伝的にはアジアという近縁性をもちながら、多様な生活習慣をもつアジアの人体の情報は生命科学の貴重な研究資源です。とくに、最近増えているがんにとっては、このアジアというひとつのフィールドは、我々の共有の財産だと考えます。

 今年の4月まで私は日本医師会の研究員でした。日本において、過去40年、がん登録は日本医師会がサポートをしてきました。これは、2002年に、日本医師会の坪井会長とともに英国の『ネイチャー』に提言として出したものです。

 2002年の時点では、日本の国内は個人情報保護法の行方をめぐって大きく揺れ動いていました。我々は、個人情報保護のしっかりとした制度設計こそが、日本の科学には必要という提言をして、その先にある、大規模データベースの構築を今後の目標としていました。この提言は、のちに、国会で、個人情報保護法が成立した際、医学研究に関しては特別に個人情報保護の制度整備をするようにという法案への付帯事項が国会で付け加えられたことの引き金となったものです。

 医学の発展のためには、適切な個人情報保護と信頼がなくては、データ・ベースの構築は不可能です。現在日本国内では、すこしずつではありますが、研究を支えるための基盤整備が進みつつあります。がん登録は、医学研究であると同時に、公共政策としての側面もあります。

 がん医療を支えるための大切なものですが、大多数の人々にとっては、自分が治るというにしかまだ興味はないかもしれません。

 また、体の情報をめぐる問題は人さまざまなとらえかたがある。ほんとうに、長い年月をかけて、お互いのために使える、堅固な共有基盤をつくりあげるためにはどんな問題点があるのか、当面はなにを目標にするかなど問題意識の共有ができればいいとおもいます。がん登録の堅いデータの上に、がん研究のために今後は遺伝的つながりと、細かい生活習慣などの情報を集めなくてはなりません。

 がんは、人の暮らしの営みの上に成り立っている。遺伝的繋がりは似ていても、生活習慣や環境が大きく違うアジアにおいては、お互いが研究資源です。

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